Resolution

ミクストメディア、VR

2021

サイズ可変

多摩美術大学卒業制作2021 優秀作品に選出

”false”シリーズという、2017年末から制作を続けている写真作品群の延長として制作されたこの作品は、VRヘッドマウントディスプレイを使って、カメラ用レンズの中に入る体験を鑑賞者にもたらすものである。

まずVRヘッドマウントディスプレイを装着すると、レンズの中に立つ状態になる。このカメラ用レンズは凹凸非球面などの様々な22枚のレンズが並んでいて、それぞれが光を屈折や反射を行なっている。その屈折/反射した光は、他のレンズで再度屈折/反射され、乱反射を起こしていく。このカメラのセンサーが捉える光は、その横にあるLEDをリアルタイムで取り込み、計算を行なっている。つまり、現実のレンズの中でリアルタイムに行われている光の処理をそのまま見ることができる。

カメラ用レンズは、実際には複数の凹凸非球面レンズが組み合わされていて、カメラのセンサーという一箇所に結像する様に作られている。通常、カメラを持つ撮影者は主体的な意図を持ってファインダーや画面を覗き、被写体=一つの決まった世界を撮影する。しかし、撮影の際、実際には、撮影者が意図していない世界もレンズに入ってくることになる。それらの世界からの光は、凹凸様々なガラスレンズの表面で反射し、その先のレンズで連鎖的に乱反射を起こす。この作品ではLEDの光一つ一つが、それらの「センサーに収束されなかった無限の世界」を示している。

この現象を改めてカメラで撮影したのが”false”シリーズだ。これを撮影する過程では、この現象が発生しているレンズにカメラを向けることになる。被写体はあくまでも「レンズ」であり、乱反射している光は偶然に映り込んでいるのである。つまり、鑑賞者はこの乱反射を観る時、通常ならばセンサーに収束されなかった視座に身を置くことになる。

本作では、VRを使い”レンズの中”からそれらの乱反射を捉えることで、「撮影者の意図を外れた無数の虚像」を、内側から鑑賞することを可能にした。本作のタイトルである"Resolution"は、 resolve ( 分解・解散などを通してして...に変化する)という英動詞から、「解像」と訳す。


教授コメント:佐々木成明(多摩美術大学美術学部情報デザイン学科メディア芸術コース教授)

レンズに映り込む光が作り出す抽象的な光の現象をHMDで観る作品。カメラ映像を使用したリアルタイム・レンダリングCGで光の振る舞いが再構築されている。作者はイルミネーションをレンズを通して起きる現象と捉えて、鑑賞者自身がレンズになって光を見るというVR体験を作り出した。その光の仮想空間は、人工的な夜景によるきらびやかな抽象絵画のようでありながら、崇高さを思わせる幻想的な光の世界にいるような体験である。

掲載:多摩美術大学 卒業制作優秀作品集2021


使用素材

カメラ用レンズ、LED、モニター、VRヘッドマウントディスプレイ、Unreal Engine

Photo: 竹久直樹